『こころ病む人を支えるコツ』
田原明夫著 解放出版社2007
この本は新版で、第1版は10年以上前に出ている。
タイトルを見ただけで、「よくあるハウトゥー本だ」と言ってはいけない。この本は、単に患者にやさしく寄り添う本ではなく、患者や家族の思いを代弁する本でもない。あるいは精神科医療や行政の言い訳をするものでもない。
著者は、長年精神科医療にたずさわってきただけでなく、京大病院など医学アカデミズムと連携した医療現場にいて、家族や当事者にも開かれた「日本病院・地域精神医学会」という団体で長く活動してきた。そうした活動の中で、日本の精神医療がかかえる問題を冷静に見つめ続けて来た。
だからこそ、患者や家族の立場をよく理解できるし、日本の現実を海外の事情と比べながら冷静に見極められ、提言の一言一言がずっしりと伝わってくる。
京都府の精神保険審査会委員などを歴任する中で、行政の立場も理解し、その努力も冷静に評価する。精神科医療の改革への努力や、なお改善されていない制度上の問題点や、差別や排除の歴史なども指摘する。この本の範囲は精神科医療全般に及ぶ。
しかし、なんといっても最も重く残るのは、
「患者はしんどいのだ。しんどい人に『そりゃ、しんどいね』という人が必要だ。」
という言葉だ。
急性期の患者の対応に迫られているとき、医師も看護師も家族も、どうやって入院させようか、どういえば薬を飲んでくれるか、身体拘束が必要か、などが先にあるのではないのだ。
著者の言葉には、精神疾患のとらえ方が出ている。くどくどと説明はなくても、なるほどとよくわかる。
N
~~~~~~~~~~~~
»»»カテゴリー別記事一覧»»»
~~~~~~~~~~~~
- 関連記事
-
- 『まずはシーベルトを理解しよう』 (2018/06/16)
- 『原発ジプシー』増補改訂版 堀江邦夫著 (2018/05/17)
- 『ヤクザと日本人』 猪野健治 (2018/05/12)
- 『飯館を掘る』天明の飢饉と福島原発 佐藤昌明著 (2018/05/01)
- 大分土砂崩れ災害、原因は「拡大造林」にある (2018/04/26)
- 『希望の草原 五郎兵衛用水物語』川元祥一作 井上洋介絵 (2018/04/19)
- 『呼吸器の子』松永正訓著 (2018/04/17)
- 『こころ病む人を支えるコツ』 (2018/03/10)
- 『シリア戦場からの声』 (2018/03/09)
- 『なんとかなるよ統合失調症』 (2018/02/16)
- 『禁じられた江戸風俗』塩見鮮一郎著 (2018/02/06)
- 『患者よ、がんと賢く闘え!』 西尾正道 (2018/01/23)
- 『きりえかるた 江戸いろは』 (2017/12/28)
- 『なぜ、あなたはここにいるの?カフェ』 (2017/12/22)
- 「はなそうよ!恋とエッチ」 (2017/12/15)
コメントの投稿
No title
患者に寄り添う医療を目指していたら、こんな理不尽なことは言えないはずです。