なぜ本が買われなくなったのか
なぜ本が買われなくなったのか
今から30年ほど前までは、学生や読書好きサラリーマンなどの間では、気に入った本を自分の本棚に並べ、友人どうしで読んでいる本を言いあったものでした。自分の本の世界の一部を披露し「俺はこんなレベルの高い世界にいるんだぞ」と自慢して満足していたのです。
当時は高尚な本を読むことが知識人としての特権でした。そんな風潮に出版業界が目を付け、リビングの書棚には文学全集、歴史全集、百科事典などが並び、それがステイタスとされていました。
時代は変わり、インターネットで情報がいくらでも手に入るようになりました。企業や団体などの宣伝、勧誘が氾濫してきたこともあいまって情報過多と言われるようになります。人は自分にとってその情報が必要か不要かを即座に仕分け、不要な情報はどんどん捨てなければなりません。情報を溜め込む意味はなくなりました。
特定の情報が必要なときはネット検索をすればすぐに得られます。一般情報の整理された本が読みたければ、近くの図書館に行けばタダで読めます。少し専門的な本や、深く切り込んだユニークな本も、必要に迫られたときにネット書店で検索し、注文すれば数日以内に届きます。
従って、本を自分のものとして抱え込む必要性はなくなりました。手にとって見ることのない本が部屋にたくさんあったのでは返って邪魔になるだけです。
老い先が見えてくると、蔵書を残しても残された家族にとっては無用の長物です。家族からは平気で「死ぬ前に本を処分しておいてちょうだいよ」と言われます。
自分の本を持つことは、ほんとうになんの役にも立たないのでしょうか。
読書の現代的意味については、以前触れました。簡単に振り返れば、
「読者とは、著者が描く独自の世界や著者独特の思索の結果に、自分の意思で入り込んで学ぶことである。特に小規模出版社の本は、経済市場や権力の統制を受けない唯一残された大衆メディアであるから、そうした本を読むことは言論の自由を謳歌することになる」ということでした。
そのような読書を通じて、貴重な世界を体得したなら、人はおのずとその本を自分の本として持っていたくなるものです。たとえ図書館から借りて読んだ本であっても、同じ本を本屋で見つけて自分の本にしたくなるのです。それはなぜか。
人間は社会的動物ですから、自分が選んで自分が努力して得たものは、家族や隣人に分かちたい。読書を通じて学んだことは、子どもや友人に語りたい。例えば、本を読んで、放射線の人体への影響はこう考えればよいのだ、とわかったなら、わかったことを被曝問題を理解できない人たちに伝えたいと思うようになります。
他人にものを語るときは、自分で理解し他人にわかるように語らねばなりません。自分の知識とするには繰り返し読む必要があり、そのためには自分専用の本が必要となります。
いちいち自分の言葉に翻訳するのが面倒なら、ちょっと手抜きをして、さわりだけを話して「詳しくはこの本を読め」と言うこともできます。実際、書物や論文を読んでいても、他人の本や論文の一部を引用して「詳しくはこの本を読め」などという風に片付けられるものです。
このように、自分の本を持つことによってこそ、その本の知的ワールドを友人たちと共有することができるのです。
ここで問題は、自分に強烈な影響を与えるほどの本と出会えるチャンスがあるのかということです。
今時の書店は、経営を考えて流行を追うような売れ筋の本しか並べません。書店の存続を考えればそれもやむを得ず、そこに変化を求めることは無理でしょう。新聞や雑誌の読書欄にしても、評判を気にする書評家たちは流行を追うような本しか紹介しません。
よい本と出会えないもう一つの理由は、友人知人の間で知的会話がなくなったことです。巷の話題はファッションやグルメ情報、本がテーマの話題でも流行を追う話ばかりで、社会や人間に切り込むような深淵な話はなくなりました。会話はいつも無難で表面的な話で終わります。多くの本が、レトルト食品ならず、レトルト情報に成り果て、見栄えよくパックされたものが人気を呼び売れ筋となります。今時のインスタント社会において、読書はインスタント学習の一つに過ぎず、情報交換はインスタント情報の交換だけになってしまいました。
では、いい本と出合いたいと願う人はどうすればよいのでしょう。
スローテンポ書店にお越しください。流行にとらわれないおすすめの本を揃えてお待ちしております。
ついでの話ですが、他人の自慢話を長々と聞かされるのはとても苦痛です。しかし、他人が読んだ本の知的ワールドの自慢話なら興味がそそられ、深く入りこみたくなります。
時代が変わっても、本の話題は知的ワールドを共有することにつながるのです。
本が売れなくなった本当の理由は、社会が余裕をなくし情報がインスタント化したからであり、知的ワールドの共有がなくなったからなのだと見ます。
だから、スローテンポの価値を見直す必要があるのです。
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