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『小さな出版社のつくり方』 永江朗著 ☆☆☆★

小さな出版社のつくり方

 永江朗 猿江商會2016年 1600円+税

☆☆☆★

 

本というものは、そのタイトルから著者の意図がうかがわれる。

この本は、これから出版社をつくろうとしている人のために書かれたのだろうか。それとも、志ある人に向けて、是非とも出版社をつくってもらい、出版界を活性化させてほしいと願って書かれたのだろうか。

いずれにせよ、本を読む側は、著者の意図とは無関係に、得られるものを得ればよい。

スローテンポ書店は、小さな出版社の本を積極的に読者に届けようとしているのだから、小さな出版社の事情をよく知ってなければならない。そのつもりで読むと、この本は大いに参考になる。

出版界の事情や、その世界での人と人とのつながり、登場する出版社の考え方や姿勢がよくわかる。

著者はフリーライターである。出版社の人ではないが、出版社の人たちと関わりが深い。この本は、著者が出版界の様々な人物と交流する中から、新たに出版社を立ち上げた人たちを紹介する。

 

さて、この本を一般読者のために紹介しようと思うと、いかに紹介するかで悩んでしまう。登場するのは、もともと出版業界に関りのあった人ばかりで、多くが大手出版社に勤めていて独立した人たちである。

日本には、出版社から断られても断られても、この本をどうしても出版したいという理由で、自ら出版社をつくったという話もある。しかし、この本にそんなことを期待してはいけない。決して、困難に立ち向かい目標に向かって突き進んでいくという感動物語ではない。

大手主導の出版業界の中にいて、ほんの少しはみ出して、幸運にもうまくいった成功談と思って読むのがよいだろう。

 

読後とてもさわやかで心地よく感じるのは、いい話ばかりを軽くとりあげているからであろう。成功談のオンパレードで、失敗談や批判はない。実際に欠点のない人たちばかりなのかもしれないが、それならなおのこと欠点を見つけ出してほしかった。

自分のことを書くなら自慢話になるが、他人のことを書くのだから、他人を誉める話になる。しかし、他人を活字で評価するなら、冷静さが必要だ。

誉めるだけでは一方的宣伝のようになってしまい、かえって本当の人物像が伝わらない。いい話を紹介するなら、なおのこと簡単に紹介するだけでなく、もっと突っ込んでほしい。

軽い本だから軽いのは仕方がないが、この本は、様々な、出版界にとっては重要なテーマについても軽く触れるだけで終わっている。

成功やヒットは資金力だけで決まるのではない、大手にも小規模にもチャンスは平等にある。本が売れない時代に、あえて出版社をつくる意味はどこにあるのか。小さな出版社は大手ができないことをやる。出版不況は今始まったことではない、いつの時代も出版界は不況であった。

これら一つ一つ、どれをとっても軽く済まされて欲しくはないテーマである。著者自身は、この本全体がこれらをテーマとし、これらを考えるためのものだと言いたいのだろうが、果たしてそれで読者に伝わるだろうか。

どうも、とりあげた出版社を応援することが目的で書かれているように思えてしまう。それならそれでもよいが、これではお友だちの宣伝に終わってしまう。

ついでに気になるのは、著名な作家や大手出版社を理由もなく美化する傾向である。売れ筋というだけで本を評価したり、ヒットを連発したら成功だというところまである。数値と格式だけの評価基準が日本では当たり前なので、著者も気付いていないのだろう。

格式主義は、印刷所やデザイナーの話にも出てくる。本は中身が大切か、見栄えが大切か。装丁という仕事は見栄えのためだけにある。こういう話になると、どうしても格式や権威を引っ張り出して、何とかまとめてしまう傾向がある。

 

出版社を始めようとしている読者のために書くなら、倒産例こそ示して欲しかった。自慢話から学ぶことは少ないが、他人の失敗であっても、失敗から学べることは多い。

もっと言うなら、『小さな出版社のつくり方』という書名は偽りである。本気で小さな出版社をつくりたい人が、この本を読んだら、「人脈も経験もない私には無理だ!」ということになる。

この本を読めば、出版界では仲間内の交流、結束が固いということがよくわかる。読者は、そんな世界への新規参入は難しいと思ってしまうに違いない。この本の内容はあくまでも『小さな出版社をつくった私のお友だち』である。

逆さまに考えられるような、ちょっとひねくれた読者には、「出版社を始めたいなら、業界の事情をよく知って、覚悟して参入せよ」という主張なのだと思って読むのがよい、と言いたい。

 

N


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