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『信長』「歴史的人間」とは何か 本郷和人著 ☆☆☆☆★

『信長』

 「歴史的人間」とは何か

     本郷和人著 

  トランスビュー2020年 1800円+税

  ☆☆☆☆★

            


  英雄が歴史をつくるのではない、というのが著者の主張である。

地域や社会に矛盾が現れると、人々に不満が生まれ、人々はそれを解消できる人物を求める。信長はその一人であり、歴史というものはそのようにして変化をとげる、と著者は言う。

 

信長の評価は、人によってまちまちである。見る人の立場によって、信長は善人にも悪人にもなる。歴史を学び現代に生かそうというなら、歴史の事実を様々な角度から冷静にとらえ、冷静に議論する必要がある。

この本は、信長の時代に限ることなく、歴史というもの全般を見つめる一つの視点を教える。例えば、土地所有制度の変化ひとつをとっても、日本の歴史の見方が変わってくる。

奈良時代、平安時代の律令制度の時代、朝廷の支配が届かなかった関東では、地域の支配層といえども、自分の土地を自分で守らなければならなかった。そのために武士というプロフェッショナルな武装集団が生まれた。

武士たちは、戦乱が起こればはせ参じた。そこで武勲を挙げれば褒章として土地を与えられた。武士は一族のために命をかけて戦った。そうやって、武士の身分は受け継がれ、力を蓄えていった。

ところが鎌倉末期、モンゴル来襲にはせ参じ戦った武士たちには、与えるべき土地が発生しなかった。鎌倉幕府は、武士たちの不満を解消できなかったために崩壊した。

室町幕府の末期には、幕府の力が弱まり、統治力の及ばないところで戦乱が始まった。戦乱が続くと農民や商人たちは困窮し、武士たちは、下克上という無秩序で褒章の保証のない戦いに疲れ果て、圧倒的に力のある人物の出現を求めた。人々の平和と秩序への願いが、絶対的な力の支配を求めることになっていった。

 

なるほどとうなづける。

今、アフガニスタンでは、タリバン政権が復活しようとしている。アフガニスタンでも、人々の平和と秩序への願いが、タリバンの絶対的な力の支配を受け入れたのではないかと考えさせる。タリバンはアフガニスタンの信長だという見方である。

それが正しければ、20年前のアフガニスタン戦争以来、米国を筆頭とする国際支援は、利権まみれで余程腐りきっていて、戦国時代を引き伸ばしただけだということになる。民主政権の誕生どころか、住民たちの暮らしの助けには、ほとんど貢献しなかったのかもしれない。

この本を読んだお陰で、アフガニスタンを見る目まで変わったのだが、欲を言えば、もっと大胆に開き直ってもらいたかった。


時代が人物を求めたという歴史観は、結局のところ、著者が否定したはずの「英雄が歴史をつくる」という歴史観の一つに変わりない。言葉を変えれば、圧倒的多数を占める、力のない底辺の人々によって歴史が変わるものではない、と言っているようなものである。

著者の主張はあくまでも、その時代に力のあった階層や階級、身分を構成する人たちが、人物の出現を求めたということであって、そういう意味では、特段に斬新的な考え方だとか、常識を変えるというものではない。

歴史の記録は、権力者の都合の良いように書かれ、権力が交代すればその都度、都合の良いように書き換えられてきたということに変わりはない。著者は、それを肯定するのか、否定するのか。

肯定するなら、信長や定番の歴史人物だけに焦点を当てるのはおかしい。現代史の主人行は権力者であってはならない。名もない農民や商人たちの目線から時代をさらに深く見つめ、権力者が描く歴史を書きかえて欲しかった。

今、テレビの大河ドラマは、都合の良いヒーロー物語を次々と押し付けてくる。そして、政治家や評論家たちは、「国民は力強いリーダーを求めている」と吹聴し、強引な政治を正当化する。

報道番組は、政権与党の次期総裁選に向けて、どの人物が総裁にふさわしいかといった政治家人気ランキングを展開し、政策論議から国民の関心をそらそうとしている。

 こんな危ない時代だからこそ、人物にだけ焦点を当てる歴史の見方には警戒する必要がある。


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