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『はじまれ、ふたたび』姜信子著☆☆☆☆

  『はじまれ、ふたたび』


 姜信子著 新泉社2021年 2200円+税

 ☆☆☆☆

 

牛の頭をした疫病の神「牛頭(ゴズ)天皇」は、異形のものを歓待せよ、と人に命じた。見知らぬ旅人や異人、今で言う「障がい者」たちを歓待することを人の務めだとしたのだ。

自ら旅をして、宿を頼んでも門前払いをした蘇民巨端(ソミンコタン)という長者一族を皆殺しにし、貧しいながらも歓待した弟の蘇民将来一族を未来永劫疫病から守るとして守り神となった。

怖いことに、牛頭天皇は蘇民巨端の守護者であった釈迦をも殺している。その日が釈迦入滅の日である。

 

この本の著者は、虐殺の地で今を生きる人々を知ろうとして旅をした。自らを牛頭天皇だとし、ときには「私は牛だ」という。

カザフ、済州島、沖縄など理不尽な仕打ちにより、多数の住民が殺害された地を訪れ、生き残った人たちの歌を聞いてまわった。歌は心の声である。

カザフのおばあさんは、貧しくとも毎日懸命に働き、旅人を見ればせいいっぱいもてなしてくれた。

どの地の人も、昔から旅人をもてなしてきた。

そんな旅人へのもてなしの心を、悪党どもは逆に利用し、だましこんで収奪にあけくれた。やがて、収奪するのは作物や人の心にとどまらず、人の命にまで及ぶようになった。言いなりにならず、不満を並べたり反抗するものは、片っ端から虐殺した。

 それでも、生き残った人たちは今も旅人をもてなす。

 カザフのおばあさんは、「ロシア人が来れば、今でももてなす」と言う。命を奪われても、旅人をもてなす。そして「旅人が悪行を働けば、私が裁くのではない、天が裁く」と言う。

 

旅人をもてなすことが至上の務めだとするなら、この世の善悪とは何なんだ。「うそ」も「ほんとう」もないように思えてくる。この世界には、良いも悪いもない。正しい、間違いもない。ただ務めがあるだけである。

そんなことで平和が保たれ人々が幸せになるなら、こんな素晴らしいことはない。平和な暮らしのイメージが浮かんでくる。

そんなことを思い描いていると、欲望の塊である資本主義の申し子たちが、人や自然からさんざん収奪しまくり、肥え太るのにやっきになっている姿が哀れに見えてくる。

この本を読むと、「おもいやり」「善意の心」「愛」などの心地よい響きの美しい言葉を聞いても空虚に感じるようになる。

逆に、心の奥底から発する言葉には命を感じる。例えば「死にたくない」「ごはんを腹いっぱい食べたい」「家族に会いたい」「人と話をしたい」などだ。

「自由」も「希望」も「夢」もつくられたものだ。「人権」も、「女の権利」「男の権利」も押し付けられたものであり、「義務」は強制されたものである。この本は人間にとって大切なものは何かを、ふと考えさせてくれる。


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Keyword : 『はじまれ、ふたたび』 姜信子 牛頭天皇 虐殺

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