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『欧州の排外主義とナショナリズム』 中井遼著 ☆☆☆☆★

欧州の排外主義とナショナリズム

中井遼著 新泉社2021年 2800円+税

☆☆☆☆★

 

 人類は21世紀に入ったというのに、どの国も国境を構え外国人の入国を制限している。ヨーロッパの多くの国は難民の受け入れを拒否し、米国では黒人やアジア人排斥の事件が後を絶たない。

 日本では難民認定が厳しく制限され、認定されず強制退去となる。身に危険が及ぶといって帰国を拒否すれば、帰国を受け入れるまで収用される。

多数の外国人が劣悪な環境の収容所に何年にもわたって収容されている。今年になってからも、体調不良を訴えていたスリランカ人女性が収容所内で亡くなった。妹や支援者たちが説明を求めているが、収容所側は応じていない。

ヘイトクライム、ヘイトスピーチも後を絶たない。

 この本は、これらの問題を、排外主義ナショナリズムから見つめようとする。

タイトルに『欧州の・・・』とあるように、主な対象は欧州ではあるが、排外主義ナショナリズムは、世界中の誰もが考えなければならない課題である。

この課題を乗り越えなければ、人類の明るい将来を描くことができない。世界平和、基本的人権、多様性の尊重と共生、平等公平性、安定経済、持続可能な暮らしなど、どのような視点から見ても、解決しなければならない課題だといえる。

課題は膨大で範囲は広い。ナショナリズムという言葉一つとっても、人によって意味合いが違ってくる。愛国心を強調したり、地域文化、伝統文化を基盤にしたり、反移民であったりする。

この本は、それらの中で、ナショナリズム排外主義につながる部分を中心に論じている。

 

著者は研究者である。研究目的を明確にする姿勢や、目的に沿った研究姿勢は立派である。そして調査結果に基づいて著者は主張する。

排外主義は貧しい人々の生活苦から生まれる、と吹聴され、多くの人がそれを信じているが実際は違う。

高収入、高学歴、意識レベルの高い人も反移民感情を抱いている。目立った発言をすることはなく、内に込めているものが思いがけないときに表に出てくる。

排外主義は、経済問題というより根強い文化の対立の問題なのである。受け継いだ文化が規範となって無意識に心の奥底を支配している。

なるほど、合点がいく。

米国では、黒人差別もアジア系、ラテン系の人種差別も、法的な制度上はないはずなのに、実際は根深く残っている。トランプという大統領は、新型コロナウイルスを中国ウイルスと呼び、中国人差別を意図的に煽り、アジア人差別の引き金をつくった。

経済的に豊かな日本人も白人社会では差別を受ける。なのに排外主義は経済問題が原因だとするのは、最初から無理がある。

白人たちの心の奥底を支配する白人優位文化が、日常生活の態度や言動から次世代に受け継がれ、いまだに継承され続けているのである。

きれい好きな日本人は、欧米以外の国からの移民の不潔さを嫌う。これは清潔感や清潔度の違いではなく、つくられた文化からくる。手洗い、うがいの好きな日本人が、なぜ欧米人のハグやキスを真似するのか。清潔感から来るのではないことは確かだ。

新型コロナの世界的流行で、外国人排斥が起きている。感染を取り込むという心配が原因だと思いがちだが、つくられた文化も大きく関っているだろう。

一つの生活習慣が出来上がり根付いてしまえば、それに反するよそ者の侵入を警戒する。習慣の違いを強調し煽ることは、多種多様な文化の存在を否定し排外主義につながっていく。

排外主義が始めからあったのではなく、地域や共同体の中で、日々の生活や様々な事情からつくられたものなのだ。その生活や事情とは、決して経済問題が主ではない。

地域文化、共同体文化といっても、地域の生活習慣や単なる地域の多数派の慣習にすぎないものある。この本では触れられていないが、その点が気になった。境界が定かでないものは、論者が境界を設定して論理を展開するほかないだろう。

 

さて、排外主義にどう対処すればよいか。この本はここからがすばらしい。

直接説得は難しいし、むしろマイナスとなることが多い。

頼みの綱は教育だ。

しかし、「同じ人間だ」という理屈を教え込むのはマイナスである。

「違う文化の人間」だとして、違いを認め合い理解し合うのだ。そのためのロールプレイの方法が実践され、その効果も示されている。

また、国や地域の制度を改善し、変化を求めていくのは、それだけを目指しても無理だという。制度は文化からできているのだから、異文化を受け入れられるようにならない限り制度は変わらない。

日本の、外国人対象の出入国管理法が世界から避難を浴びているが、政府はさらに改悪しようと今国会で廃案になった。日本は、外国人と交流を増やし、交流の中で気付くようにしなければ、いつまでも変わることはない、ということだろう。

 

この本は、研究報告を一般向けにしたものである。大切な内容を気付かせてくれ、得るものは多い。

といっても研究方法の解説までしてあるので、多少とっつきにくいかもしれない。逆に意欲さえあれば、「排外主義は経済問題ではない」とする著者の論拠を、専門家でなくとも自分自身で検証することも可能だ。

本の読み方は人それぞれでよいが、この本は考えながら読む本なので、そう構えて読んで欲しい。


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