絵本世界の食事11
『モンゴルのごはん』
文 / 銀城 康子 絵 / 高松 良巳
農文協2009年 定価2,500円+税
☆☆☆☆
モンゴルは、面積が日本の約4倍です。海はなく内陸性の気候で、年間の気温差が大きいところです。北部の山岳地域には森林がありますが、南へ行くほど雨が少なくなります。国土の約8割が草原で、広大なモンゴル高原が中央部にあります。農地は少なく、広い草原では家畜の遊牧がおこなわれています。
この草原で暮らすモンゴルの人たちは、普段どんな食生活をしているのでしょうか。首都ウランバートルに住む人たちと遊牧民たちの暮らしを交えて紹介をしたいと思います。
モンゴルは雨が少ないから、穀物や野菜、果物を育てるのは簡単ではありません。漁業ができる海もありませんし、淡水魚の獲れる川や湖のある地域も限られています。しかし、モンゴルには広大な草原があります。
この草原の草は、家畜として飼っているウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ラクダなどに適しています。これらの家畜を「モンゴルの五畜」と言い、遊牧民の大切な命の糧となっています。
遊牧民は、家畜を連れて草の生えている場所へ移動する生活をし、家畜のミルクや肉を食料にしてきました。
ミルクはとても栄養が豊富ですが、反面、腐りやすいという欠点があります。だから、遊牧民は、ミルクを加工して乳製品をつくります。その乳製品を「白い食べもの」といいます。
夏場は「白い食べもの」で過ごしますが、冬になると、家畜はミルクを出さなくり、乳製品ができなくなります。
そこで、何頭かの家畜を解体し、その肉などを食料にします。これを「赤い食べもの」といいます。長い冬を、乾燥肉と冷凍肉で乗り超えます。雨が少ないから肉は乾燥し、冬の寒さは、外に出しておくだけで肉は凍りそのまま保存できます。
モンゴルでも比較的雨が多い北部では、小麦やジャガイモなどを栽培することができます。しかし、栽培可能な面積は、国土の約1%しかありません。そのわずかな土地で多くを収穫できるよう努力をし、食事のなかに取り入れてきました。
モンゴルの首都であるウランバートルには、スーパーや市場があり、いろんな食材を買うことができます。このような街に暮らす人も、遊牧民が昔から食べ続けてきた乳製品の「白い食べもの」、肉類の「赤い食べもの」が食事の基本となっています。
モンゴルの朝ごはんは、お腹に優しい乳製品が中心です。男性、女性問わず子供たちも家事をします。家の仕事を家族みんなで協力するのも、遊牧民だった昔からの伝統です。
モンゴルの学校は、午前の部と午後の部に分かれています。午前の部に通う子供たちは、家に帰ってきてから昼ごはんを食べます。午後の部に通う子供たちは、昼ごはんを食べてから学校へ行きます。
学校や分校が遠く離れているので、登校する際には馬が必要不可欠です。モンゴルでは、大人も子供も乗馬ができます。
街で仕事をする大人たちは、街にある食堂で昼ごはんを食べますが乳製品は欠かしません。ウランバートルには、食堂やレストランが多く、モンゴル料理だけではなく様々な料理を提供します。
晩ごはんは、みんなそろって、ゆっくり食べます。スープがある時は最初にスープ、次に汁気の無い料理、最後にデザートの順番で食べます。
モンゴルの人は羊肉を好みます。日本では「羊肉は臭い」と敬遠されがちですが、草原で育ったモンゴルのヒツジには、あまり臭みがありません。そう言えば、モンゴル出身の元横綱朝青龍は、初めて日本に来た時に食べた憧れのハンバーガーの第一印象を、「肉が臭かった」と言っていたように記憶しています。
調理の際にも余計な味付けをせず、岩塩だけを入れて茹でます。モンゴル料理の味付けの基本は塩です。スパイスなどは、ほとんど使いません。
モンゴルには、料理を作り置きする習慣がありません。しかし、ミルクやチーズ、干し肉などがいつでも用意されているので、買い物が出来ないときでも安心して料理ができます。
もともと遊牧民は、ゲルという組み立て式の住まいで移動生活をしているので、調理器具はあまり持ち歩きません。
ところが、街中で暮らす人たちの台所は、日本の台所とほとんど変わりなく、シンク、電気コンロ、オーブンがあり、鍋やフライパン等の調理器具が揃っています。
最近は、マヨネーズやケチャップをかけて食べる人が増えているようです。これは、伝統文化の良いところまで忘れ去られる予兆ではないかと気になります。
たべものがかり
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