『和紙の里探訪記』菊池正浩著 を読んで 大嶋 寬
大嶋 寬
この本は2012年に草思社から出版された。著者は菊池正浩という昭和14年生まれの旅行ジャーナリスト。
この著者は、あるとき和紙の魅力に目覚めたのだろう。突然、和紙の里の調査を開始した。2年半もの間、訪れた里は300ヶ所に及び、移動距離は8万キロを超えた。本ではそのうちの60ヶ所を紹介している。
和紙の原料は、有名な楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)の3つである。かつてはいずれも野山に自生していたが、和紙の需要が高まって原材料が不足した時代は栽培もしていた。
紙をすくには、清んだ冷たい水と糊が必要である。和紙づくりの糊はトロロアオイから作られ、その産地は清流のある山間地に多い。和紙の里はいずれも、それらの条件にかなったところにある。
現在通常使われる紙は、機械で効率よく大量生産されており、全てが手作業で手間のかかる和紙の将来は風前の灯である。著者が訪れた300ヶ所の中でも、既に廃業された所が多い。
この文章の筆者である私は、本で栃木県の烏山(からすやま)和紙が取りあげられていたので、親近感を覚えうれしくなった。というのも、私は栃木県に住んでおり、50年ほど前に栃木工業高校を卒業した。そのときもらった大切な卒業証書に烏山和紙が使われていた。
最近新聞のトップページに、烏山和紙からの卒業証書づくりが、カラー写真とともに紹介されていた。関東地方の小・中・高の130校の卒業生のために、合計28、000枚がつくられるそうだ。
記事には、和紙の良さを引き継ぐことの大切さが力説されていたが、改めて和紙文化の重要性を感じた。私はますます和紙に惹かれていった。
数年前に栃木県茂木町の焼森山という山に、三椏の花の群生地がみつかり話題になった。和紙ファンになった私は、当然直接見に行った。3月中旬に薄黄色の花が咲く。花が終わった所から新芽が3つに分かれて出ることから、この名前がついた。
和紙の里300ヶ所の一覧表の中に、私が住む小山市のすぐ隣にある結城市小森地区が出ていた。私は和紙ファンだから当然行ってみた。片っ端から地元の人にたずねて回ったが、和紙づくりに関連した情報は得られなかった。
帰り道に結城図書館に寄って、小森の和紙づくりに関する情報の調査を依頼してみた。1ヶ月後にようやく返事がきた。いろいろと調べたが、残念ながら何の情報も得られなかったということだった。
栃木県では、鹿沼市西部や栃木市の山麓で今でも少量だが麻が栽培されている。麻は、かつては麻縄に使われていたが、今では化学繊維に取って代わられた。その麻からも紙がつくられていた。
紙は稲わらや芦(よし)などからもつくることができる。古代のエジプトやギリシャで紙に使われていたパピルスは、芦に似た水性植物である。どちらも茎や皮が利用される。いずれも繊維が長いから紙づくりに適しているようである。
いろいろ調べてみると、昭和30年代まで桑の木からも紙がつくられていたことが分かった。しかし、採算が合わず全廃したとのことだ。いずれ調べてみようと思う。
こうしてみると、和紙の原料には身近な材料が使われており、昔から人々はなりわいとしてきた。和紙は日本人の生活から生まれた伝統文化といえる。
日本の和紙は、数百年もの耐久性があることことから、海外からも注目され、古典絵画の修復や文化財の補修などに使われている。今こそ日本の和紙を見直す時だろう。 了
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