『北海道化石としての時刻表』柾谷洋平著
著者は古い時刻表を元にして、北海道の鉄道と社会の変化を見ようとする。
意外なタイトルと、著者の若さに引かれた。若者が時刻表を眺め、時代の変化をどのように想像したのだろうかと、興味深く読み進めることができた。
第3章の北見、狩勝、塩尻峠の「峠3景」は、私自身が訪れたことがあるので親近感を持った。3つの中でも特に狩勝峠は、鉄道全盛期を知る鉄道マニアなら誰でも知る国鉄の3大車窓地の一つだ。
古い時刻表を眺めていれば当時のイメージが浮かんでくる。それはこの章に限らない。この本全体がマニアにとっては十分楽しめる内容だ。
本の舞台となる北海道はとにかく広い。感覚が本州とは違っている。私の夜行列車の記憶を紹介したい。
1969年の正月休みに、蒸気機関車を撮影しようとして、札幌から函館まで、夜行の鈍行列車に乗った。
客車内はガラガラだったが、椅子では寝にくいので、通路に新聞紙を敷いて寝た。通路に寝るなんて、今なら車掌さんに怒られるだろうけれど、当時は何も言われなかった。
ところが、寝ていると、椅子の下にあるスチーム暖房の熱がもろ顔にあたり、顔も頭も熱くなってくる。ずらして寝ると今度は寒くなる。その頃を知っている人たちには、きっと覚えがあるに違いない。
この列車は、鈍行列車としては当時の北海道では最長距離であった。釧路を朝8時10分に出発し、途中札幌21時20分発、そして、終着函館には早朝の5時到着だった。680㎞を21時間をかけて走る。
このような夜行列車が各地にあった。時刻表を見ていると、過去の記憶がよみがえる。私だけでなく、時刻表マニアにはたまらないだろう。
今では北海道全域を札幌を中心に高速バスが結んでいる。国鉄の列車が走っていた路線がことごとく高速バスにとって代わってしまった。本線を走るローカル列車も本数が減った。盲腸線と呼ばれてきた行き止まりの支線は、次々と廃線にされほぼ全滅してしまった。これでは、北海道を鉄道旅行するには不便でしょうがない。現地の人々の生活も大きく変化したことだろう。
昔ながらの汽車の旅は時間がかかったが、何ともいえないスローテンポの良さがあった。その古き良き時代が忘れられていこうとしている。今更ながら古きよき時代を思い出す。機会あるたびに自分の体験をまだまだ紹介していきたい。
大嶋 寛
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