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『出生前診断 受ける受けない 誰が決めるの?』 山中美智子、玉井真理子、坂井律子編著 ☆☆☆☆

『出生前診断

    受ける受けない 誰が決めるの?』

   山中美智子、玉井真理子、坂井律子 編著

   生活書院2017年 2200+

   ☆☆☆☆


 この本は、一つの考え方を押し付けることなく、欧米の事情やその考え方を冷静に紹介する。出生前診断を冷静に見つめようとする読者にとっては格好の本だ。内容の一部を紹介しながら、この本の立場を伝えたい。


 出生前診断に火を付けたのは検査会社だった。 

「赤ん坊がダウン症かそうでないかがわかる検査」があるという触れ込みで爆発的に広がったのがトリプルマーカー検査だ。母体血清マーカー検査のことだ。企業がパンフレットをつくって宣伝した。

 訴訟王国の米国では、一つの裁判を契機に、障害児が生まれたら医者が訴えられるようになった。検査会社は、悩める産科医たちに検査を宣伝した。産科医たちは宣伝にのった。それで米国ではこの検査が普及した。

 この母体血清マーカー検査について、日本の厚生科学審査会は、医師が患者に積極的に知らせる必要はないとし、その理由も示している。

 分娩の3先天異常が生まれる。進歩した出生前診断の技術をいかに駆使しても、出生前にはそのほとんどがわからない

 先天異常が生まれる確率3に対し、ダウン症が生まれる確率0.1である。それを積極的に検査する意味があるのかということになる。


 NIPTという新しい出生前診断法が出てきた。母体血中細胞外胎児DNA検査のことである。母体の少量の採決ですむのだから、胎児にリスクはないし負担もかけない。検査費用がかさむのが難点だが、将来、利用者が増えれば費用も軽減されるだろうとされる。

 感度99.1といって宣伝されるが、数値に騙されてはいけない。この本は、統計手法のトリックについても、きちんとわかりやすく説明している。

 例えば、感度99.1%といっても、ダウン症の出生頻度0.3%の集団では陽性適中率75となる。陽性と診断されても4人に一人はダウン症ではないということになる

 検査の誤解をなくすには、誤解を生まない精度評価が必要である。それには、ダウン症や二分脊椎などのそれぞれの疾患ごとに、調査対象人数と、その中で検査が陽性であった人数をはっきりさせる必要がある。

 その上で、出生前に検査陽性だった人数のうち、出生後に実際に疾患があった人数を出す。そうすれば陽性的中率がはっきりする。

 「感度99.1%」という言葉が何を意味するかはあいまいだが、検査陽性も検査陰性も一緒くたにした的中率を指しているのだと推測される。そうだと考えれば、極めて稀な疾患の場合は、のきなみに陰性と判定すればそれだけで的中率は高くなる。

 ダウン症が生まれる確率は、若年出産も高齢出産もひっくるめて一般に1000人に一人程度とされる。不安をあおれば、出生前検査を希望する者いくらでも増える。遺伝子産業は大金を儲ける金鉱脈を見つけたといえるこの検査に企業は群がっている。政府もがい者の公的補助費を大幅に削減できるのだから、暗に支援する。


 ヨーロッパでは「労働力を輸入したが、やってきたのは人間だった」と言われる。人間だから子どもを生む。病気の子どもも生む。その面倒までみるはめになってしまった。

 出生前診断について、イギリス、フランスは実質的に妊婦全員が対象とされ一次検査にかけられる。強制はされないが、拒否しなけれ自動的に受けるシステムになっている

 難民や移住労働者たちは子どもを産む。産んだ子どもが障がい児だったら福祉予算がかさむ。障がい児を減らして福祉予算を抑えるために全員検査をする、ということが国全体の暗黙の合意となっている。誰も困らないから、誰も批判しない。

 言葉すら通じない親たちに出生前診断の意味や問題点を逐一説明しても理解できない。彼らは、生き延びるためにやってきた難民や移民である。理解してもらうなんてことは、時間と労力がどれだけかかるか気が遠くなる。考えるだけ無駄であるそれに、彼らだって障がい児を生むことを望まないはずだ。

 それなら、理解し自分で判断するという、ヨーロッパが築き上げた民主主義の原則を少しぐらい曲げても構わないだろう。

 様々な事情や理由から拒否を申し出る人を、きちんと対象から外せば一律に検査してもおかしくない。こうして、拒否しなければ自動的に全員対象にマススクリーニングにかけるというシステムができあがった。

 要所説明を加え「望まない人は拒否してください」と記載があれば、彼ら自身が判断したことになる。いずれ、障がい児が生まれたのは出生前診断を拒否したからだといって、公的補助を打ち切るときが来るだろう。


 1995年のWHOガイドラインでは、4つの倫理原則をあげている。自律性善行悪意の排除公正である。

 しかし、どれも主観的判断に委ねるもの誰にでも共通する基準とはなり得ない。この4つの原則を提案した人物やそれを採用した人たちのご都合主義と思考程度がよくわかる。

 権威ある人、権威ある学会や、団体が出してくる指針とはこういうものだ。自分たちの主観で勝手にガイドラインを決めてルールにしてしまう。誰にでも当てはまるルールをつくるなら、ルールづくりにこそ、自分たちが示した4つの倫理原則を守らなければならないだろう。

 出生前診断のルールづくりに限って言うなら、自律性とは、企業や国などから完全に独立していることであり、善行とは、その目的が全ての人の幸福につながることである。悪意の排除公正のように、当たり前のことをわざわざ採り上げなければならないのは、出生前診断には悪意不公正がはびこっているからだろう

 新しいルールがよいルールだ、と立証することは誰にもできないが、間違っていると指摘することは、気付いた人にはできる。ということは、一人でも真剣に反対する者がいれば、よいルールとはいえない。

 スコットランドでは先天性二分脊椎が多い。

 一組の夫婦がいる。先天性二分脊椎で出生直後に子どもを亡くした。夫婦は悲しんだ。二人目の子も同じように出生直後に亡くなった夫婦はこんなつらい思いをくり返したくないと思い、次の妊娠中に出生前診断を願い出た。だが母体の生命に危機を与えるものではないとして、断られ

 WHOの言う、自律性善行悪意の排除公正の倫理原則とはこんなものだ。

 夫婦の思いも、出生前診断の原則もよくわかる。だが、ここでは困っている人に寄り添うことが抜けている。そこにこそ医療の原点がある。出生前診断をやるやらないを問う前に、親に希望を与え親が悲しまないようにすることを忘れてはいけない。

 出生前診断は、人々の理解のないまま、ビジネス主導で一般化してしまった。様々なルールや取り決めは、現実を追認するものだ。この本は、そのことを教えてくれる。


N


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