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『日本人と〈戦後〉』木村倫幸著 ☆★★★

『日本人と〈戦後〉』

木村倫幸著

新泉社 2018年 2400円+税

☆★★★

 

 この本は、著者が関ってきた思想誌や雑誌などに掲載された書評や論文の中から、適切なものを選んでまとめたものである。戦中、戦後の日本において、どのような人がどのような発言をしてきたか知るには便利だ。

とりあげる著作の選択はあくまで著者によるものだが、出版された様々な本を大雑把に知るには参考になる。著者の思い描く戦後史が伝わってくるし、詳しく知りたければ原典を読めばよい。一般の読者は、著者の考え方を知ろうなぞと期待するのではなく、日本人と戦後を考えるうえで参考にするつもりで読むのがよい。

 

気付いた注意点を述べておこう。

この本には、文章や言葉を理解するのに時間がかかる部分がある。想像力を働かせて考えなければならないからだ。後ろ扉の著者紹介を見ると、やはり著者は倫理学専攻の学者であった。学者の書く本はおもしろくないと相場が決まっている。同じ仲間にとってはおもしろいのだろうが、仲間以外にはわかりづらい。

著者は、「生活の中から生まれる主張」を大切にすべきだと言うが、著者自身の学者生活から生まれた主張は、なかなか庶民には伝わらない。専門用語や他人の引用を避け、手っ取り早く自分の言葉で主張すれば、もっとわかりやすく誰にでも伝わるだろうと思う。

例えば「戦後レジームの解体」とは格調高い表現だとは思うが、「戦争に突き進んだ歴史の反省」とすれば誰にでもわかる。「非国家神道」などという難解な言葉を引用するまでもなく、「国家主義に反対、庶民の生活に根ざした伝統を尊重しよう」でよいのではないだろうか。

この本を通じて著者は、どうやら鶴見俊輔が唱える「非国家神道」を賛美したいのかなと感じた。鶴見俊輔とは、戦後活躍した哲学者、市民運動家である。「べ平連」の結成や「9条の会」を呼びかけるなどを挙げ、戦後日本の進歩的文化人のカリスマ的存在だと評価する人が多い。

非国家神道」とは、「国家神道」に対比してつくられた造語である。生活に根ざした伝統を重んじる考え方であり、国家主義にも国家がつくった国境にも反対する。庶民の生活を重要視し、その中から生まれる主張や伝統を大切にすれば、アジアは平和になるということらしい。

著者の思い描く深い意味を理解していないからかもしれないが、私自身は、「非国家神道」が日本をよい方向に変えるとは思えない。

今の日本に必要なのは、「非国家神道」よりも「反省する力」だと思う。機会があればいずれ改めて論じたいが、ここでは「非国家神道」に危うさを感じる理由について、かいつまんで述べておこう。

悪い結果が出れば、必ずどこかに原因がある。原因を捜し、突き止めたなら反省する。反省すれば同じ間違いをくり返さない。主体的に生きる人間にとっては当たり前のことだ。

そんな当たり前のことが、今の日本にはない。日本人は、戦争の歴史も、水俣も薬害も原発事故も反省をしていない。政治家も官僚もリベラル派活動家も、教師たちも反省していない。日本の将来を担う次世代が、失敗を真摯に見つめ反省できないのは、学校教育で反省することを教えてこなかったからだ。都合の悪いものには蓋をする。それが日本の伝統になっている。

だから、生活に根ざした伝統を重んじるという「非国家神道」に危うさを感じるのである。

反省しない日本だが、例外的に反省する集団が一つだけ存在する。保守系政治家と官僚や学者たちの集団だ。彼らが目指す国家は、庶民の願う国家とは程遠いが、それを巧みに覆い隠し、失敗を反省しながら新たな方法を模索し、地道にコツコツと動いている。

戦争の失敗から学び、対米従属を選択した。水俣や薬害における失政の反省から、学術界を動かし基準値以下なら安全だと言わせ、化学薬品の蔓延とクスリ漬け医療を生んだ。

反省は他国の失敗にも及ぶ。チェルノブイリでの事故対応の失敗から学び、フクシマではデータが厳しく隠蔽される。

その一方で、日本のリベラル派が弱体化するのは、反省する力がないからだ。民主党政権の崩壊についても反省がない。反省のないまま分裂して消えてしまった。

問題をあいまいにしたまま反省もせず、争いや議論を避け表層的な「和」や「平和」に満足するのが、庶民の生活から生まれた日本の伝統である。だから「非国家神道」に危うさを感じるのである。

この本は、そんなことを考えるきっかけを与えてくれた。


N


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