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『ヘイトをとめるレッスン』 ホン・ソンス著 たなともこ、相沙希子訳 ☆☆☆☆☆

ヘイトをとめるレッスン

ホン・ソンス著 たなともこ相沙希子

ころから 2021年 2200円+税

☆☆☆☆☆

 

ヘイトスピーチとは何であるかをわかりやすく説くだけでなく、どのように対処するかがわかりやすく書かれている。大人なら知っていなければならないことばかりであり、多くは学校でも教えられなければならないだろう。

この本を読んだ後に、何気なく民放のバラエティーニュース番組を見ていて、米国を代弁する常連コメンテーターが、根拠もなく中国を攻撃していることに気が付いた。「中国はおかしな国なんだから、おかしな主張をしてくるのは当たり前だ」と主張する。これはまさしく、中国を蔑視するヘイト表現ではないのか。

この本を読んでいなければ、気にすることなく聞き流していただろう。これまでの自分の感覚に恐ろしさを覚えるとともに、この本の重要性を改めて感じた。

ヘイト表現が知らず知らずに浸透し、それが当たり前となっている。そして国民が、あるとき突然選択を迫られる。深く考えることなく選択し、それがくり返されることによって後戻りできなくなる。非人道的、強権的独裁政権の代表としていつも取り上げられるナチス政権も、そんなことを何度もくり返した後に誕生したのである。

 

著者は1975年韓国生まれ。法哲学を専門とする研究者であり、イギリス、スペインなどでの研究を経て韓国に戻り、十年前からヘイト表現の実態調査と規制方法の研究に取り組んでいる。

著者によると、10年前の時点で、民主主義を標榜する国家で、ヘイトや差別に対して国家の対応がないのは、韓国と日本だけであったそうだ。

2018年、この本の原著が韓国で出版されると、たちまち大きな反響があり、著者は全国をまわって講演活動を行ってきた。

この本は、政治的な主張は一切なく、冷静に学術的にヘイト表現の本質的なところまで踏み込んで、きちんと整理して説いてくれている。しかも、わかりやすい。

15レッスンで成り立っているので、読みやすく、レッスンを終えれば、ヘイトに対する考え方や対処法まで身につくようにできている。

 

読み終えて、特にスゴイと感じたところを私なりに紹介しよう。

ヘイトスピーチは、法や制度で規制すれば解決するというものではない。ヘイト表現というものが、常に言論の自由と対立するからである。

暴力などで、他人にはっきりと危害を加えれば、既存の法律で罰せられる。しかし、行動を伴わないヘイト表現を法律で規制することには、問題がつきまとう。どこまでが言論の自由で、どこからが他人に危害を及ぼす迷惑行為になるのか、その境界線をどこに置くかは、主義主張によって分かれるのである。

国がヘイト表現にどう対処するかについては、2つの方向がある。一つは、言論の自由との境界線を明確にして法で規制する方向。もう一つは、あくまで言論の自由を認めた上で社会環境を整備するという方向である。

ヨーロッパでは、犯罪行為を煽動するというところで線を引いて、法を制定し処罰する。

米国では、あくまでも言論の自由を保証し法規制はない。しかし、学校や職場などでの教育、啓発活動が盛んで、人権環境からアプローチする。

厳しい法律をつくっても、個々の事例ごとに解釈や適応のしかたで必ず見解の相違が起きる。法律の効果には限界がある。いずれの方向を選択するにしても、教育や環境からのアプローチは必須である。

 

日本では、2016年、ヘイトスピーチ解消法ができた。これは国家の姿勢を明白にする上で、大きな意義がある。

この先、環境を整備していくことが求められる。誰もが安心して住めるようにするには、何が求められるか。実際の事例が参考になる。

一つ注目したのは、ヘイトに対するカウンターである。

韓国には、「メガリア」という過激な女性活動団体がある。女性を蔑視する男たちにとっては怖い存在である。活動はネットが中心で、ヘイト表現を洗い出し、カウンター攻撃を加える。女性蔑視語の「キムチ女」に対しては、男性を蔑視する「韓男虫」という言葉で応じる。このやり方をミラーリングというそうだ。

ヘイト表現の発言者が自己嫌悪に陥り、やがて自分の言動を冷静になって見れば、恥ずべきだと気付きヘイト表現を止めるようになるという。

「メガリア」は、女性に限らず、男性も含め多くの市民の支持を得ており大きな存在となっている。

市民の支持が大切なのであって、そのことを端的に示すのが、日本の新宿区新大久保で展開されたカウンターデモである。

過激な謙韓デモと大声のヘイトスピーチがくり返されていた。次第にエスカレートして行き、地元住民たちとの間で一発触発の状態だった。これではいけないと思った人たちが、カウンターデモで対抗した。住民や通行する市民にも訴えた。しだいにカウンターデモ支持者が増え、デモが大きくなった。そのうちヘイトデモがみすぼらしくなり、やがてヘイトデモがなくなった。

 

新大久保のカウンターデモの話は知らなかった。この素晴らしい話を知って、テレビを見ていてヘイト表現があったときは、テレビ局に電話して指摘しなければならない、と思うようになった。気付いた人が指摘していけば、誰もがヘイト表現に関心を抱き、誰もが住みやすい環境ができるだろう。ヘイトをなくすには、市民一人一人の理解と行動が必要なのかもしれない。


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Keyword : ヘイトをとめるレッスン ホン・ソンス たなともこ 相沙希子 ヘイト表現 ヘイトスピーチ 差別

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