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『パンデミック下の書店と教室』 小笠原博毅、福嶋聡 著 ☆☆☆★★★

パンデミック下の書店と教室

小笠原博毅福嶋聡 著

新泉社 2020年 1800円+税

☆☆☆★★★

 

人種差別を研究する大学教授と、カリスマ書店長の二人の間で意見が交わされた。その往復書簡が雑誌に掲載され、今回、それが一冊の本になった。

新型ウイルスのパンデミック下で、書店とは何かを考える上で参考にできるのではないかと思い、とびついた。果たして、内容はどうであろうか。

 

こんな話が紹介されていた。

阪神大震災の地震直後に、瓦礫の中で書店がオープンした。まだ電車も動いていないのに訪れる客は多かった。頼れるものが何もないとき、客は書店を訪れて安心を得た。

これは確かにいい話だ。

社会が混乱するときほど、書店が求められる。そこは生活の一部であり、どんなときも言論の最前線であり続けるからだろうと思う。

新型コロナの感染拡大で、スローテンポ書店は客足が途絶えている。全国の独立系書店も同じであろう。

この箇所を読みながら、震災新型コロナとの違いを考えた。

今は震災のときほどの混乱はない。

仕事を失う、人との接触が制限されるなど、事態は深刻だけれど、地震は突然襲ってきたのに対し、新型コロナによる禍はじんわりと迫ってきたものだから、人々はあまり深刻に感じていないのだろうか。

あるいは、時代の急速な変化とともに、国民があまり考えないで、我慢するようになってしまったのだろうか。日本人の我慢強さが美化されるが、政治家や官僚たちの不祥事や、アベノマスクなどの理不尽な政策に対しても我慢することがよいことなのか。

地震、津波は避けられないが、新型コロナによる禍は、ほんとうに避けられなかったのか。

いろいろと考えがめぐった。著者の二人には、もう少し掘り下げてくれないのか、と不満が残る。

 

いい話ばかりではない。とんでもない主張をさらりと述べて終わるところがある。一つだけとり上げておこう。

著者は、書店に「ヘイト本も置く」と述べて、それで終わっている。こんな大それたことを、議論もしないで過ぎ去るのはいただけない。もう少し真剣に考えてほしい。

これでは、「ヘイト本も置く」を肯定し、置く書店がいい書店で、置かない書店は二流だということになる。

ヘイト本も排除しない。どんな本も排除しない。言論の自由を守るためだ。そのように考えるなら、わからないでもない。

しかし、世界には無数の本が存在する。一切排除しないなら、無数の本を全て並べなければならない。そんなことは不可能だから、どの書店も並べる本を選択するのである。

選択するということは、選択されなかった本を排除するということである。言い換えれば、「ヘイト本も置く」ということは、積極的に「ヘイト本を置く」ということである。

ヘイトとはマイノリティー攻撃のことである。マイノリティー攻撃の本を排除しないことは、マイノリティー攻撃を、積極的に応援するとまではいえないにしても、容認することではないか。

現代人は、見かけやフィーリングで感化されやすい。一旦、影響を受ければ、修正はとてつもなく困難で、ますます凝り固まっていく。そしてその中から、ヘイト活動の担い手となっていく人が出てくる。

一方、現実社会を冷静に見つめようとするなら、確かに、ヘイト本が現実に出版されているという事実を知り、どんな主張がなされているのかを知る必要がある。そのような目的を持った人にとっては、ヘイト本が書店にあることは意義がある。

言えることは、書店が独自に、対象である客を分類選択し、本の並べ方や案内を工夫することであろう。そのような工夫の上であれば、ヘイト本を置く書店があっても納得できる。

 

全体を通じて、主張が軽いと感じた。

訴えたいことがたくさんあって、それを全部言おうとするから、結局、何も残らない。読んでいて疑問を感じても、検討されないまま次へ進んでしまう。読者は置き去りにされる。

著名人の引用ばかりで、自分の考えを自分の言葉で言っていない。知識の豊かさを自慢し合っているようにも思える。

二人の間の意見交換なら二人が互いに分かり合えばそれでよい。しかし、一冊の本として、一般向けに出版するなら、読者の存在を忘れてはならない。

インターネットのSNS普及後は、このような表現スタイルが当たり前になったのかもしれない。

テレビのバラエティー番組は、視聴者は置き去りで、出演者同士が盛り上がって楽しんでいる。SNSは「いいね」を求めて投稿する。気に入った人がいれば「いいね」ボタンを押す。この「いいね志向」は、広く訴えるというのではなく、気に入った人だけを相手にする。

いいね志向」は、いやなこと、めんどうなことを避ける方向に向かう。自分たちの世界に入り浸り、社会における収奪も不正も見なくなる。底辺であえぐ人を見なくなる。新しい理想世界も求めなくなる。

いいね志向」は、正しいか、正しくないか、ではなく、気に入るか、気に入らないかで、ものごとを判断する。

テレビやSNSに限らず、活字メディアまでが「いいね志向」になってしまった。この本はその典型ともいえる。

もともと、絵画や音楽などの芸術とは感性に訴えるものだったが、決して「いいね」だけを求めるものではなかった。活字メディアが「いいね志向」になったのでは、思考も判断も行動もが表面的になる。

本でなければ訴えられないもの、それは論理である。本の出版まで「いいね志向」に走るなら、やがて本はSNSに吸収され消滅することになる。

以上のように、読み方によっては、この本は様々な問題を投げかける。

 

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Keyword : パンデミック下の書店と教室 小笠原博毅 福嶋聡 新型コロナ 震災 我慢 ヘイト本も置く SNS いいね志向 論理

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