スマホとコンゴと日本人
コンゴの悲惨な現状とムクエゲ医師の活動がテレビで紹介されていた。
彼はコンゴ人民共和国の婦人科医であり、2018年にノーベル平和賞を受賞している。
コンゴでは組織的レイプが後を絶たない。武装勢力が支配地域を拡大するために、住民に恐怖心を植え付けているのだ。彼らは支配地域でレアメタルを採掘し、それを資金源にして武器を買い、戦いを続けている。
スマホに必要なレアメタルは、その80%がコンゴ東部で産出される。そのレアメタル獲得のために、100以上の武装勢力が争っている。
ムクエゲさんは武装勢力間の争いで性的被害を受けた女性たちを救う活動をしている。体の治療にとどまらず社会復帰の支援もしている。また、世界に積極的に出かけ、「無関心は罪だ」と叫び支援を訴え続けている。その活動はベルギーで映画になっている。2019年には日本にも来ている。
今、彼の活動拠点になっている病院は、新型コロナウイルスとの闘いの最前線にある。テレビ画面で彼は「検査ができない。医療資材が不足している。移動禁止で医療活動も支援活動もままならない。武装勢力の勢いが増している」と訴える。
医療活動、支援活動は称賛すべきだ。「新型コロナの感染拡大の影響で、困難に直面している。理解と支援を求める」という思いはよく理解できる。
しかし、番組が終わって疑問に思った。
病院支援ばかりを訴えているが、病院を支援をしたところで被害はなくならない。被害の原因を作っているのは誰なのだ。武装勢力とそれを野放しにする国際社会ではないのか。
世界に訴えられるせっかくのチャンスなのに、ムクエゲさんは何故そこを訴えないのだ。
スローテンポ書店で毎週開催している懇話会に、コンゴ出身者が参加しているので、その彼にこの疑問をぶつけてみた。するとすぐさま答えが返ってきた。
「えっ、そんなことはない。ムクエゲはいつもそのことを積極的に訴えている」
たずねた方が驚いた。そしてネットで調べた。そして自分の無知を恥じた。
ムクエゲさんのヒロシマでの講演記録があり、そこで彼はコンゴの悲惨な事情と自分の思いを詳細に語っている。
暴力によって女性の体が破壊される実態を自分の言葉で語る。婦人科医であるから誰よりも女性の体をいとおしむ。また、隣人と共に生活する人間であるから人間の思いを切実に訴える。レアメタルがあるから、女性の体が犠牲になっているという言葉には悔しさが込められている。
ムクエゲさんは「平和」を訴えるにとどまらず「正義」も訴える。
国連が20年以上も前に、コンゴでのレイプや虐殺など617件の人権侵害について調査した。2010年になって、600ページに及ぶ詳細な報告書が作成された。
しかし、10年経った今も、犯罪の責任者は処罰されていない。報告書が告発しているのに、犯罪者がまだ権力の座に居座っている。少女や女性をレイプしたり、教会に人々を閉じ込めて放火した張本人である。国際社会は何もしていない。彼は世界に向けて正義の実現を訴え続けている。
日本のニュースは都合の悪いところが消される。都合の良いように世界をアレンジして報道し、国民の関心事を操作する。そして国民は幸せだと思うように仕向けている。
それで国民は幸せなのか?
そんなことはない。自殺に追い込まれる人を大量に生んでいる。
そもそも、強盗殺人、集団レイプの犯罪集団からものを買うことが許されるのか。犯罪集団から買い求めたレアメタルで部品がつくられ、その部品からスマホが出来上がる。そのスマホを買う行為は、回りまわって間違いなくコンゴの武装勢力を育てることになる。それも知らずに、日本人はスマホを買い求め、おとく情報を必死になって捜している。
宣伝に乗せられスマホを買い替えるたびにスマホをよく見つめよ。虐殺されたコンゴ人の血と、集団レイプ被害者の涙で出来ているのだ。
スマホをつくる人、売りたい人、使いたい人は、何よりもまず犯罪集団を処罰するよう国際社会に働きかけ、健全な市場をつくり上げ、健全な取引ができるよう努力しなければならない。
情報にだまされたり洗脳されないために、われわれはどうすればよいのか。
「ネットで世界のニュースを常にチェックせよ」といっても、それを出来る人などいない。個人が世界のニュースの全てをチェックできるはずがない。
大切な情報とは、人が関る情報だ。いろんな人から話を聞けばよい。コンゴのことはコンゴ人に聞けばよい。
自分の世界に閉じこもっていると世界が狭まる。たくさんの人から話を聞くのがよい。いろんな人の話を聞きたい人は、スローテンポ書店が開催する懇話会に参加するのがよい。
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