『東京五輪がもたらす危険』――いまそこにある放射能と健康被害☆☆☆☆☆
『東京五輪がもたらす危険』
東京五輪の危険を訴える市民の会編著
緑風出版2019年 1800円+税
☆☆☆☆☆
タイトルを見ると、一部の過激なグループが放射能の危険を煽っているかのようにみえるが、中身を読んでみると、極めて冷静にデータを集め取捨選択し、道理を尽くして論理を展開している。決して一部の極端な主張ではないことがわかる。
東京オリンピックは日本だけの問題ではない。世界各国で東京オリンピック反対の動きがある。「フクシマでオリンピック? 気が狂ったか?」という映画まである。
原発再稼動を推し進めるグループや堕落したメディアの側こそ、都合の悪い事実を隠し通してきた。そして、東京オリンピックは国民の総意であり世界から期待されていると装い、国民総参加のイメージをさんざん植えつけてきた。
民主主義は、一見、極端にみえる意見も無視してはならない。日本の現実を冷静な目で見るために、この本を多くの人に読んでもらいたい。
この本を読めば、いろいろなことに気付き、いろいろなことを考える。何を感じ、何を考えるかは、人それぞれであろうが、新型コロナの感染拡大に伴って、人と人とのつながりが疎遠になっている今だからこそ、考えてもらいたいことがある。
1.他人の意見を知る
この日本をどのような国にしたいのか、次世代にどのような国を残したいのかを考えるなら、他の人がどのように考えるかも知らなければならない。
本来ならば話し合いに参加するのがよいけれど、今の時期はなかなか直接の話し合いが持てない。それなら代わりに本を読めばよい。本の著者が自分の主張を整理しまとめたのが本である。
ベストセラーや有名人が書いた本は、世間の流れや流行を知るにはよいが、あまり目新しい内容がない。あまり読まれず埋もれている本にこそ、新しい発見がある。
危機が迫っているが一見平和が保たれているというときこそ、不都合な真実が隠される。そんなときこそ、少数意見や弱者の意見を積極的に知ろう。特に時代の流れに逆らう考え方や、一見、過激な意見は、安易に切り捨てられがちだ。
現状維持を願う保守的なグループは、都合の悪い意見や考え方を排除しようとする。現在、過去の米国やわが国の政治家たちの発言を聞いていれば、その手口がよくわかる。権威に言わせる、ウソのデータで強引に結論付ける、不都合な発言者に忌まわしいレッテルを貼り付ける、などの方法が頻繁に見られる。報道するメディアがそのまま受け入れるから、国民意識は、自ずと保守的になっていく。
現状を改革しようとする意見は、常に少数意見から始まる。少数意見が排除されれば、社会の歪みも変わらない。そして少数意見は、積極的に知ろうとしなければ知り得ない。
2.過ちを反省してこそ未来を描くことができる
誰しも、いやなこと、余計なことは知りたくない。しかし、この社会を主体的に生きていこうとするなら、都合の悪い事実も知らなければならない。
不都合な真実を明らかにすれば、対立が生まれる。知った人と知ろうとしない人との間で争いが生まれる。真実を隠そうとする人たちは、「だから、知らない方がよい」と吹聴する。
日本の歴史は、過去の都合の悪い事実を一貫して隠してきた。アジア各地で戦ってきた兵士たちは、その体験を決して子や孫に話すことなく墓場まで持っていった。次世代たちは、戦争中に何が起きたのかを知らずに生きている。だから日本人は過去の反省という言葉の意味すらわからなくなった。
反省できないのは、戦争の歴史だけではない。反省できていれば再び起こりようのない公害事件や薬害事件を繰り返し、政治家や官僚、公務員たちは不祥事を繰り返す。
そして原発事故が起こり、事実が隠され誰も反省していない。
過去をきちんと見つめれば、誰もが日本の異常さに気付く。ウソで塗り固められた日本が、未来永劫続いて欲しいとは誰も思わないはずである。誰もが納得のいく公平でごまかしのない日本は、過ちを反省して始めて出来上がる。
この本は、原発事故の隠された事実を知り、日本人一人一人が原発や事故といかに関わってきたかを反省するきっかけを与えてくれる。
経済が破綻しようが、生きていればやり直せる。だからこそ、新型コロナの感染拡大に対して、経済を犠牲に非常事態宣言が出されたのではないのか。
次期オリンピックの開催地を決めるための、各国代表の投票日の直前に、安部首相は演説し「東京には、原発事故の影響は全くない。これまでも、今後も影響はない。」と言い切った。完全終息を宣言したことが、僅差で東京が選ばれるという結果につながった。
首相は原発事故の完全終息を宣言したが、原発事故後に出された原子力緊急事態宣言は、いまだに解除されていない。「今は緊急事態なのか、それとも完全収束なのか。どっちやねん?!」と言いたくなる。
この矛盾した首相の態度の深層を少しだけ深堀りしてみよう。
国際オリンピック委員会(IOC)は、マネー資本主義の落とし子だ。利権まみれで、嘘と不正が当たり前である。多くの人が気付いており、すでに世界の共通認識となっている。
マネー資本主義は、人の命までもマネーに換算する。経済効果が大きければ、うまく言い訳をして人の命を犠牲にする。IOCは原子力産業とも利害を共有し、もちつもたれつの関係である。いい訳を並べるが、結局のところは、選手や観客の健康よりも経済効果を優先する。
マネー資本主義の総本山は米国にある。その一の子分を自認する日本政府は、当然、米国が主導する国際機関の言いなりになる。国際機関は本性がばれないように、ウソで塗り固める。
核による健康被害は、常にヒロシマ、ナガサキ、ビキニなどのでっち上げデータに依拠して、真実は隠されてきた。日本の研究者はいずれの調査にも参加できなかった。
スリーマイル原発事故では、米政府は「健康被害は皆無である」という公式見解を発表した。誰にでもわかるウソを押し通したのだ。
チェルノブイリ原発事故後、国際機関は同じような原発大事故がどこかで起こることを予想していた。そして、健康被害に関するデータを隠蔽するためのさまざまな対応策がつくられた。
予想していたとおり、フクシマで原発事故が起きた。そして、計画どおりに対応がなされた。健康被害に関するデータは計画どおりに隠蔽された。安部政権は国際機関に従順にその方針をしっかり守っている。だから、フクシマにおける隠蔽は、チェルノブイリよりも徹底されている。
チェルノブイリ後、国際機関は決議を出している。「住民は避難したくない、被曝を受け入れる。事故対応は、それに応えなければならない」
「住民が避難したいか、したくないか」は、住民がどう思うかであり、どう考えても国際機関が決議することではない。これは、直接事故対応にあたる政権に向けての事前指示なのである。安部政権はその支持どおりに対応している。
フクシマ後、難病発症数、周産期死亡率、先天奇形は明らかに増えている。
日本の総死亡数は、2011年に6万1000人増加した。そのうち地震、津波関連死は2万人であるから、それ以外に4万人も死んだことになる。当前、大多数が原発関連死だろうと考える。
安倍首相は、原子力緊急事態宣言が解除されていないのに、原発事故の完全終息を宣言した。オリンピックさえも経済優先であり、世界中の人々にウソをついてでも経済効果を日本に持って来たかったからであろう。
それだけではない。必死になって原発事故に蓋をしてきたが、ほころびだらけだ。国民意識をオリンピックのお祭り騒ぎに総動員することで、封印を完璧なものにしようとしたに違いない。
そのもくろみは新型コロナ騒ぎで延期された。
今からでも遅くない。蓋をこじ開けよう。
詐欺師でさえ、詐欺の手口を知っている人は騙せない。騙されないためには、よく知ることに尽きる。この本が大いに助けになる。
まだまだあるがここで終わろう。この本を読めばいろいろなことを考えずにはいられなくなる。みなさんも、感想や考えたことなどをそのままにしておかず、是非ともスローテンポ書店にお寄せください。
N
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