ひきこもってなんかいられない
社会的ひきこもりとは、社会参加したくてもできない人のことをいう。芸術家などが制作活動に集中するためにこもる場合などは含まれない。
ひきこもりの原因や対応策について、活発な主張が行き交うが、意見の一致はない。
大きく分ければ、本人の性格や社会性に問題ありとする本人要因論と、社会からの排除に原因があるとする社会要因論の二つがある。
確かに、支援者が接触しようとしても、拒否するひきこもりが多いので、そこから本人に問題があると考えがちだ。
昨今「ありのままの自分でよい」とする主張が社会全般に行き交い、若者たちの間では「自己実現」という言葉が独り歩きしている。その結果、ややもすると努力することを軽視しがちになる。
行過ぎれば若者たちは「職探しをやっていれば、自分にピッタリの仕事が見つかるはずだ」と思うようになる。「ありのままの自分」に満足してしまえば、成長願望がなくなり、他人の意見を聞けなくなる。そして「今のままの自分が素晴らしい存在なのだから、その自分を社会が受け入れないのは社会の側がおかしい」と思い込む。
その行き着く先は、現実とのギャップを突きつけられ、挫折と葛藤でひきこもりになってもおかしくない。
当たり前のことだが、「自己実現」の前に「自分は何をやりたいのか」が問われなければならない。そしてやりたいことが見つかれば、その実現のための努力が求められる。
性格は環境によって変わり、考え方や社会性は、学校や職場などでの人との付き合いで形成される。人との接触を断ってしまえば、気付きも成長もなくなる。そうしてひきこもりは固定化される。
最初の段階の、人との接触の大切さやそのやり方は、幼少時からの教育や訓練によって身に付ける。
教育や訓練は社会が担うものであり、その不足がひきこもりにつながるなら、ひきこもりの原因は社会要因論に一元化できるだろう。
社会性の遅れは、取り戻せる。いくつになっても人は成長するのだから、ひきこもりは、自分を変えようと一歩踏み出してもらいたい。
人と接触することから始め、いずれはどんな形でも社会参加することだ。
社会参加とは、社会の一員になることであり、自分から積極的に社会に働きかけることだ。仕事をして給料をもらって生活することもその一つである。ひきこもりとは、自ら社会参加の努力を放棄した状態だともいえる。
支援者が最も困るのは、ひきこもりが他人の話を受け付けないことだ。
それに対しては、「あなたは何をやりたい人なのですか?」とたずねるのがよい。「自己実現」したいなどといってくれば、「協力しますよ」と言うことができる。しかし、ひきこもりは、不満ばかりで具体的にやりたいことがない。
同じことは、現実に疑問すら抱かずこの社会が敷いたレールに乗っかって生きてきた人についてもいえる。自分が本当にやりたいことがないのである。それは、社会的地位のあるなしに関らず、社会経験や年齢の枠を超えて共通する。
自分自身にとって最も大切なものが、お金だという人も同じである。それをいい換えれば、あてがわれた価値観しか持たず、自分自身の価値観がないのである。
人は、社会の中に自分の居場所を見つけようとする。「自己実現」とは、自分が満足する居場所を見つけることに他ならない。それを別の言葉でいえば、自分が満足できる社会参加の形を見つけることになる。
ひきこもりは、現実の歪んだ社会に自分の居場所はないと達観したのかもしれない。
社会参加とは、直接的にも間接的にも人と関ることである。仕事をする人も社会活動する人も、いろいろな他人と関り、疑問にぶち当たり、葛藤し考え、きっかけをつかんで成長する。そしてその過程で、自分が本当にやりたいことを発見していく。いい換えれば、自分の価値感が確立していくのだ。
しかし、ひきこもっている人にはそのチャンスがない。いきなり「仕事をせよ」と言うのも、ハードルが高すぎる。
懇話会に参加して、他人の話を聞き、人はそれぞれ現実に悩み苦しみ、考えながら生きているという現実世界を知るのもよい。
慣れてくれば、自分の意見を話し、それに対する参加者の意見を聞けば、自分の考えを冷静に見れるようになる。
人との直接的な関りではないが、書かれた言葉を通じて著者と対話するのが読書である。
場所も時間も選ぶことなく、わずかな本代だけで、先人たちの経験や、悩み考え抜いたことを、聞き取ることができるのだ。それも、きちんと伝わるように、わかりやすくまとめられている。自分の世界をどこまでも広くしてくれ、自分を成長させてくれる。やりたいことがみつかれば、ひきこもってなんかいられなくなる。
そういう意味で、読書は社会参加の一つだといえる。現実に挫折しひきこもろうとしている人も、すでにひきこもっている人も、一人で考えないで、本でも読んでみよう。
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