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こんな本があります

    名取春彦

 

『患者よ、がんと賢く闘え!

西尾正道著 旬報社2017年12月  

 

大戦後の一時期、世界の放射線治療をリードしてきたのは間違いなく日本でした。当時の癌研グループは、舌癌や上顎癌などの頭頚部癌に対して、放射線や手術を組み合わせて見事な成績を収めて世界を驚かせたのです。その癌研にいた医者たちが大学病院や癌専門機関などを背負ってたち、次の時代の治療医を育てました。

この本の著者である西尾さんは、そこで学んだ一人であり、放射線を駆使して日本で最も多くの患者を治療してきました。

彼は一貫して北海道のがん治療医でしたが、若かりしころは休暇をとりビジネスホテルなどに泊まりながら東京女子医大や癌研病院などに通いつめ、自分で納得のいくがん治療を追求してきました。筆者はそのときからの友人です。

 

彼が得意とする小線源治療は、その可能性が当時も今もまだまだ理解されていません。外科医だけでなく放射線科医の間でさえ理解がないのですから、新たに道を切り開こうとすれば消耗するばかりです。そんな中で、彼は地道にこつこつと北海道に小線源治療の拠点を築きあげたのです。
 かつて私自身が栃木県で、がん患者の治療に積極的に取り組んでいたとき、自らの無力を嘆きながら何人もの患者に「どうしても治りたいなら北海道まで行くか」と言っていた頃を思い出しました。

 医学技術が急速に進歩し、がん治療のスタイルは大きく変化しました。放射性ラジウム針を直接患部に並べて刺すような治療は、前近代的な職人芸として絶滅しつつあります。しかし、放射線の人体への影響をみるとき、患者の組織に自分の手で線源を刺してきた医者だからこそわかることがあります。

特にICRP(国際放射線防護委員会)の放射線防護は、放射線の種類や被曝部位を無視した一律の線量評価を基準にしており、その問題点にほとんどの人が気づいていません。被曝評価は放射線防護政策の根幹に関わるだけに、気づいた人間は指摘せずにはおられません。

天下のICRPに対してズバリと切り込むところは、とても痛快です。小児甲状腺がんや鼻血の問題なども、データを駆使しよくまとまっていてとても参考になります。

 

ところが彼は今、小児甲状腺がんに対する発言で、一部の反原発活動家などからネットなどでバッシングを受けているそうです。原発事故に起因するかどうかは、隠蔽さえなければすぐにでも真実に到達するはずのものです。それを一部の過激な活動家たちは、自分たちの主張に反することを言う人間はすべて敵だとして攻撃を加えます。

かつて国際機関は、チェルノブイリ原発事故による小児甲状腺がんの多発を否定し続けてきました。否定できなくなったのは、事故後に生まれた子どもたちに甲状腺がんの発症がないというデータが出てからです。今、原発を擁護する国際機関は、フクシマではそのような決定的なデータが出ないようにと隠蔽に必死です。

今やるべきことは、当たり前に出てくるはずのデータが隠蔽されないようにすることです。原発に疑問をいだく人間どうしで攻撃しあっているときではありません。


 言っても理解してもらえないことは言わないほうがいいのですが、そうはできないのが人間です。そういうところに、「人間西尾正道」を感じさせてくれます。
 ついでに
この本では、学生時代の志からお世話になった先輩まで登場し、小線源のカリスマ医誕生までのいきさつがこれまでになくよくわかります。

 

この本が扱うテーマは、がん治療だけでなく、福島原発災害、小児甲状腺がん、鼻血論争、ICRPの問題から果てはTPPまで多岐に及んでいるのですが、それらを関連付け体系化して一つの理念としてまとめることが今後の課題だと思われます。

しかし、本人は誰よりも被曝しながら、3万人もの患者の被曝を受ける組織を見つめてきたのです。そんななかから生まれたものだとわかって読めば、この本で言っていることの大部分が、今のままでもなるほどと納得できるものになるでしょう。

特に、小線源治療に関するところは、これまでも今後も永遠に彼にしか書けないだけに、多くの人に読んでもらいたいと思います。 前世紀の遺物だとみなされようが、患者によいものは、そのよい点を、形を変えてでも残す必要があり、広く伝える必要があります。

 

ご本人は人生最後の本だと言っていますが、フクシマは収束していないし、がん患者の多くはなお満足な医療にありついてはいません。言いたいことはまだまだあるはずです。少し休んだらきっと再び元気に発言されることでしょう。もっともっと主張されることを期待します。

 了


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