『きりえかるた 江戸いろは』
こんなおもしろいものがあります
お正月は、きりえかるたであそぼう。
庶民に伝承されてきた「江戸いろはかるた」、「犬棒かるた」ともいわれます。
詠み人が大きな声で「犬も歩けば棒にあたる」と詠めば、参加者は、並べられた絵札から犬と棒の絵が描かれている『い』の絵札を探し、最初に手を付けた人がその札を獲得します。48枚の札がなくなったら獲得数で順位が決まります。
詠む順番は決まっていないから、次に何が読まれるかわかりません。達人たちのかるた会では、出だしの「い」と聞いただけで、すばやく「はい」と言って いの絵札を勢いよくたたきます。
日本一決定戦では、手を置くのではなく勢いよく横へはじき飛ばします。目には見えない瞬時の差で勝負が決まるのだから、はじき飛ばされた方向で勝者が決まるのです。
しかし、かるた遊びはスローテンポで楽しめばよいのです。庶民たちの間では、1句最後まで詠み終えた後に、大人も子どもも必死になって絵札探しをします。
まちがった札に手を付けると「お手つき」といって罰が科せられます。その罰は、獲得札数の1枚返上や、1回お休み、あるいは他の参加者たちの「次からがんばれよ」のやさしい視線だけで終わるなど、何でもありです。
競技終盤になると残りの札が少なくなってきます。絵札がすぐに見つかるので、参加者の闘志がぐんと増し、まさに真剣勝負です。
残り1枚となったら、手の動きの早いものが勝つか、小さな子どもや成績不良者に対する参加者の恩情で1枚の行く先が決まります。
『きりえかるた 江戸いろは』は、絵札のきりえが素朴ですばらしい。大人や子どもの着ているもの、持っているものやしぐさからは生活のワンシーンが感じられ、どの顔にも表情があって何を言っているかまで伝わってきます。おどろいたことに犬にまで表情があり、犬の言うことまでわかった気にさせます。
現代人の子どもでも知る句が半分、大人でも意味があやふやな句が半分です。小さな文字の解説文が付いているので、パパはこっそり読んでおいて、本番でいざ子どもにうんちくをたれれば、威厳回復にもってこいです。
ゲームが氾濫するこの時勢、社会は子どもたちに、パチスロゲームで賭博を教え、殺し合いゲームで殺人教育をやっています。それをただこまねいて見ているのはやめにしましょう。
江戸の庶民は遊びの中に文化を残しました。遊びを通して慣用句を自然に覚えさせ社会を認識させるのが、「いろはかるた」です。
「いろはかるた」で遊んでいれば、テレビの国会中継での政府答弁には「む-無理が通れば道理ひっこむ」、原発再稼動には「の-のどもとすぎれば熱さわするる」と自然に言葉が出て来ます。
「森友加計問題」で、政権側の正当性を主張するさまざまな説明は、次々とうそがばれて「う-うそからでたまこと」です。江戸庶民が現代日本を見たら同じように言うことでしょう。世界に自慢すべき歌舞伎や浮世絵とはまた違った形で江戸庶民の感性が伝わってきます。これはそんなかるたです。
差別表現はそのまま残されています。
このかるたは「人が人を差別することのない、すべての人間の尊厳が認められる社会」を願ってつくられました。大人が子どもに差別の社会的背景を説明することで、子どもは差別の歴史を学ぶのです。
ところが、かつての「ろ-論より証拠わら人形」は、「わら人形」が削除されてしまったようです。
ひそかにわら人形をつくって憎い相手を呪い殺すというようなことは、子どもの教育上問題だというのでしょう。
でも、絵札側の絵にはわら人形が残されています。大人は子どもにわら人形を示して、さらに深い裏事情を講釈すればよいのです。
現代社会の文化伝承においても、「く-臭いものに蓋」をした結果、「わら人形」が削除され、かるた製作者たちのひそかな抵抗の結果、絵が残ったのです。
最後に秘密のアドバイスを一つ!
老いても子にしたがいたくない人は、「を-老いては子にしたがい」を前もって除いておきましょう。
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