読書のすすめ―なぜ売れない本をすすめるのか―
読書のすすめ
――なぜ小さな出版社の
売れない本をすすめるのか――
本は著者から読者への手紙のようなものです。
著者は広く訴えたいことを、何日も夜遅くまで時間と労力をかけ、何とか読者に伝わるように書き上げているのです。
よい本は、著者が自分に向かって「どうぞ、私の言いたいことを理解してください」と言っているように思わせてくれます。本を読むということは、著者と読者のコミュニケーションの始まりです。
人はなぜ本を読むのか。
古今東西いろんな人がいろんな答を出しています。
テレビの普及によって街の映画館がなくなったように、インターネットの出現によって本はなくなってしまうのでしょうか? スマホ全盛の日本ですから、改めて考えてみました。
単に「情報を得る」ためなら、スマホやパソコンからインターネットに接続して検索すれば、わんさかと情報が得られ、簡単便利です。ところが、読者の目的は、単に「情報を得る」ためではないのです。
人はなぜ本を読むのか。
難しい本を読み始めると眠気をもよおすので、睡眠薬の代わりに本を読む人もいるし、座右の書を抱え難題にぶち当たったらいつも読み返すという人もいます。読書の目的は人によって様々でしょうが、多くの人に共通する3つを挙げてみました。
① 娯楽のため
漫画や小説を読むのはおもしろいからです。人によっては歴史書や時事評論を読むことだってたのしみです。
「頭をほぐすため」というのも、ここに含まれます。興奮するほどたのしいとはいかなくても、軽くたのしむための読書があってもよいでしょう。
音楽を聞いてリラックスするように、疲れた頭をリラックスさせるために本を読む人がいます。コーヒーを飲んだり、タバコを一服ふかすのと同じように、読書が生活の一部になっているのです。
② 知識を得るため
学生時代に講義をサボったときは、本を読んで知識をカバーします。海外旅行をするときは、現地の事情を下調べするために本を読みます
差し迫った課題をクリアするためには、課題について本を読んで知識を得ます。直接経験していないことでも、本を読むことによって知識を得ることができます。
③ 人格形成、教養を身に付けるため
たくさん本を読んで知識の豊富な人は、社交の場では教養ある人だとして尊敬を集めます。逆に社交界の常識を知らなければ、無教養な人だとしてばかにされます。
「読書のすすめ」や「読書論」の定番は、読書は「人間の幅を広げる」とか「人格を育てる」「知的なたのしみだ」と説いています。これはこの③にあたります。
①②③の境界はあいまいです。娯楽のための読書でも知識は蓄積されるし、必要に迫られて本を読んでも、教養が身に付きます。この分類は、単に本を読む動機だけに注目したものです。
これら①②③のうち②を除けば、必ずしも読書でなければならないということではありません。
読書に変わるものがあれば読書以外のものを楽しんだり、リラックスできるならコーヒーやタバコでもよいのです。
たしなみや教養とは、住む世界が違えば無用のものにもなります。人間の幅とか人格といった人物に対する評価というものは、価値観の違いでその内容も基準も変わります。保守的な既存の社交界を批判的に見る人にとっては、たしなみや教養とは人物評価のばかばかしい基準といえます。
プラトンやシェークスピアを知らなくても、日本を住みやすく改革できるし、自分の店を繁盛させたりすることはできるのです。
さて、ここまでをまとめると、読書が人間にとってなくてはならない理由は、②の知識を得るためにあります。
でも、テレビやスマホからでも知識は得られます。どこが違うのか。
1. 能動的に得た知識と受身の知識の違い
読書から得られる知識は自分で積極的に得た知識であり、テレビやスマホから得られる知識は与えられた知識ということです。もちろん、本を書く人は自分の考えを積極的に訴えるために書くのですから、それに比べれば、読者は著者の考えを読み取ろうとするだけですから受身的といえます。ですが、能動的に努力して読まなければ理解するまで行かないのですから、受身の知識とはぜんぜん違います。
2. 整理され体系化された知識と無秩序に羅列された知識の違い
本から得られる知識は整理され体系化された知識であり、テレビやスマホから得られる知識は無秩序に羅列された知識です。
読書から得られる知識は、整理され体系化された情報を自ら積極的に求めたときに得られるということができます。それを学習と言い換えてもよいでしょう。テレビやスマホと読書との違いは学習の効果があるかどうかにあります。そして、私が読書をすすめる理由は、読書には学習の効果があるからなのです。
学習とは単に情報を得るだけでなく、情報を整理して自分のものにするということに他なりません。
学習は、痛い思いをする、つらい体験、記憶に残るたのしい思いなど、自分の体験を通じて体得するか、課題をクリアするために能動的にとり組んだ結果でなければ得られません。また、知識の羅列では応用がきかず、体系的に整理されていなければなりません。
氾濫する情報も受身では自分のものにはならないし、体系化できなければ応用ができません。
体系化された知識とは、別の言葉で言えば、自分の知らない世界を知るということです。
たとえば、日本経済の断片的な知識がいくらあっても役に立たないけれど、適切に書かれた本を読めば、情報が整理され体系化されており、そこには著者が描く日本経済の世界があるのです。
では、テレビで特別に企画されたテーマを持った番組や、通信教育などのための講座番組はどうでしょう。積極的、能動的に学ぼうとして番組を見るなら間違いなく学習効果はあります。
むしろ難しい本を読むよりもわかりやすく効果的でしょう。ですが、時間が決められ、テーマに制約があります。読書は好きな時間を選べるし、テーマは無数にある中から選べます。自分の知らないテーマだってあるのです。
人は読書によって自分から知らない世界を知ることができます。それが読書による学習です。
ここで「自分の知らない世界」についてさらに掘り下げてみましょう。
A.世間や著名人の見方、考え方
B.ユニークな見方、考え方
A.は古典やベストセラーを読むことであり、有名人や世間一般の常識を学習するもので、読書の目的①②③の③に相当します。自分の知らない世界だと思っていても、広い意味では自分と共通の世界です。
テレビで企画番組や特別講座を見るのは、どちらかというとこちらです。
B.は、自分の知らないユニークな見方、考え方を知ろうというもので、自分が住む世界とは別の世界を知るのですから自分を大きく成長させ、その喜びや感動はAとは比較になりません。別世界の話ですから、とっつきにくく理解困難です。読み進めるには、覚悟と努力が必要です。
私が読書をすすめる理由は、まさにここにあります。
自分の世界を広げ、ものの見方、考え方を深めるには、読書以外ではとても難しく、逆にこの目的のために書かれた本がたくさん読者を待っているのです。そうした本は、決してベストセラーにはならず、多くは売れない本です。
売れない本は、自ら世界の流れに乗っていこうとする人には無用ですが、世の中の流れに疑問を抱き、ライフスタイルを改めて見直そうとする人にとっては極めて有用です。
ここで、情報操作についても触れる必要があります。
民主主義を標榜する社会においてさえ、情報は常に資本や権力によってコントロールされます。新聞を毎日しっかり読んだり、テレビのニュースを毎日欠かさず見ていても、世の中の出来事を正しく理解することはできるとは限りません。日本のニュースは外国で報道されるニュースとは異なります。報道内容は、報道機関の思惑によって決まります。そこにはスポンサーや業界、関係機関の力が影響します。
同じようにテレビやネットの受身の情報は、業界の思惑などによって操作されます。検閲などのようなあからさまな圧力はありませんが、生き残るために内容が変わることはあります。
それは本の世界においても同じです。読者によい本を届けようということを忘れ、本の売上を伸ばすためにとっつきやすい本の販売に力を注ごうということになりがちです。文学賞や売れ筋ランキングなどは、そのような業界や出版社の思惑の結果なのです。
そうした情報コントロールの行き届かない唯一の領域が小規模出版です。経済的には苦しくても言論の自由があります。かといって売れなければ出版活動を継続できません。そんな厳しい状況でも、読者によい本を届けようと地道に努力している出版社がたくさんあります。
すごい本がたくさんあります。自分にぴったりの本、知らない世界を教えてくれ、この上ない感動を与える本が必ずあります。
読書の効用を示すキーワードは、学習です。それは、整理され体系化された著者の世界に自ら積極的に入り込んで自分にとって新しい世界を知ろうとするもので、漫然とテレビを見たり、ネットで検索しても得ることはできないものです。
さらに読書でなければ得られないのが、著者独自の考え方やユニークな世界を知るということです。特に情報コントロール時代、唯一そこから逃れられるのが、小規模出版です。だから小さな出版社の売れ筋でない本をすすめるのです。
Sまだまだ
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