創刊から47年の奇跡の雑誌『月刊むすぶ』
47年も地道に生き延びてきた奇跡の市民交流誌
『月刊むすぶ』ロシナンテ社 800円+税
この雑誌は、創刊からなんと47年の歴史を持つ知る人ぞ知る月刊誌です。少数の支持者に支えられ今日まで生き延びてきました。
47年前の1970年と言えば70年安保の年です。前年には、日本の一大転換点となる重大な事件がありました。
学生たちによる東大安田講堂の占拠が長期化し、大学が機動隊の導入を決定したのです。混乱のため東大入試が中止になりましたが、それは東大の歴史が始まって以来始めての出来事でした。1969年は、東大に行くはずの人材が全国に散った年でもあります。
過激な学生に対する評価はいろいろありましたが、単なる過激派集団の暴走というよりは、当時の社会構造を見据えるならば、理想を追い求める学生たちが最後にたどり着いた選択であったとして、知識人たちを中心に一定の支持がありました。
当時、自分の思いを声をあげて主張する学生たちは、党派を超えて全共闘に結集しました。その全共闘とは、医学部のインターン制度反対闘争を契機として始まったもので、当時の一般市民も一定の理解を示していました。
政府の対応に納得できない医学生たちは、闘争のスローガンを医局講座制解体へと発展させました。他の学部の学生たちもそれに同調します。医学部における医局講座制とは、医学部以外では、大企業の戦士や官僚の養成機関としての大学システムと見ることができました。全共闘は既存の大学の解体を主張し、闘争は各地に波及し大学がバリケードで封鎖されたのです。
全共闘の主張は、戦後民主主義の欺瞞を暴いたという評価もあり、そういう意味では今の時代にも通用するところがあります。当時は学生も若者も、社会システムや社会構造に対して敏感で、今の時代より社会に関心が高かったと言えます。
この時代は、大学の外においても、議論が盛んでした。話題はさまざまですが、例えば、長引く水俣裁判、森永砒素ミルク事件裁判、薬害スモン事件、狭山事件、沖縄コザ暴動、成田空港三里塚闘争、熾烈化するベトナム戦争などを、我がことのように熱く語り合いました。今もうやむやにされたままのこうした事件がマスコミをにぎわせ、「日本の社会はこれでいいのか」と一般市民を巻き込んで盛んに議論されていたのです。
しかし、東大のみならず各地の大学へ機動隊が導入されたのを契機に、全共闘は沈静化すると、やがて多くのメディアはこぞって、「全共闘は終わった」、「時代は変わった」と言いたて、まるで問題は全て解決したかのような論調に変化しました。そして“理想をかかげて主張しても社会は変わらない”という空気が蔓延します。さめた時代の始まりです。
卒業を迎える時期になると、熱く主張していた学生も、生き延びるために企業や役所に就職しました。一部には「内部から改革するためには、内部に入り込まなければならないんだ」という言い訳もありました。こうして若者の多くが既存の体制に溶け込むようになったのです。
そんな時代の変わり目に創刊されたのが『月刊むすぶ』です。そして残り続けました。時代の流れに乗っかろうとせず、一貫して地道に主張を続けてきた人たちがいたのです。熱い時代の生き残りです。『月刊むすぶ』にはそのような人たちがたくさん登場します。
そして、企業や役所で働いていても、言うときは言うという人たちや、他人の問題を自分のことのように考える人たちによって支えられて、『月刊むすぶ』はかろうじて生き延びてきました。だから『月刊むすぶ』は奇跡の雑誌なのです。
現代人がこれを読めば、水俣事件など過去の大事件の深層を知ることができるだけでなく、それらの大事件が今も決着していない事実や、現代にも共通する日本社会の闇に気付かされることでしょう。
かといって『月刊むすぶ』は過去の雑誌ではありません。時代の流れに流されないという視点があるからこそ、「東電福島第一原発事故」や「津久井やまゆり園障害者殺傷事件」など、現代日本を象徴する歴史的事件を特集として取り上げ、鋭く見つめます。
Sまだまだ
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